はなの旅立ち 3

こんにちは。emihana です。





今から書こうとしている、「はなの最後の夜の話」は

たぶん一番、書きたくなかったことなので、なんだかんだと先延ばしして来ましたが

ここを乗り越えないことには、はなの最後の頑張りや

私がなぜ今、はなの死について、納得がいっているのかを

わかっていただけないような気がします。


だからやはり、書いておかなくてはなりません。



さて、4日目の午後、獣医さんで輸液だけを入れてもらい帰宅した後

数時間は横になって、一応、浅く眠っていたはなでしたが

11時を過ぎたあたりから、例の怪獣鳴きがいっこうに治まらなくなりました。

お父さんは翌朝も5時起きなので二階の寝室で休み

私が一人で対応していましたが、まるでだめで

これはただ事ではない、そう思ってお父さんを呼びました。

今まで、夜中に発作が起きようが、大運動会を開催しようが

何があっても、寝ているお父さんを起こしたことはありませんでしたが

あの鳴き方、そして、一定間隔で鳴き続けていること

呼吸が荒いまま、治まらない・・・どれをとっても、緊急事態だと

判断せざるを得ませんでした。


もちろん、もうはなは自力では一切起き上がれず、たとえば起こしてやっても

自分の足では立てないし、いくら支えてやっても、回る真似事もできなくなっていました。



それでも、一定間隔で鳴き続けます。

深夜ですから、その声はいっそう響き渡り、鳴かれるたびに可哀相でたまらなく

また、こちらの心臓も鷲掴みにされる気がしました。


どうにも鳴き止まないので、お父さんは自分の布団の中にはなを寝かせ、添い寝しました。

そしてはながなくたびに、頭を撫で、体を擦り

「はな」「大丈夫だよ」「もう、寝なさい」

そんな風に声をかけ続けました。


それでも、はなは鳴き続けましたが、夜中なので、どうしてやることもできません。

24時間の救急病院が隣の市にあるのは知っていましたが

お父さんは寝酒をしていましたし、そもそも、今の状態のはなを

車に乗せ、病院へ運ぶだけでも、命の危険があると

とにかく朝まで様子を見よう、と言うことになりました。


はなの息はますます荒くなって行きます。そして鳴き続けます。

お父さんは何度も「はな、苦しかったら、もう頑張らなくていいよ」

泣きながらそう言っていましたし、私もまったく同じ気持ちで

「はなは、もう十分頑張ってくれたから、もういいんだよ」

そう話しかけていました。


そして、たぶん2時か3時頃だったと思いますが

「痛み止めを飲ませよう」

お父さんは言いました。

以前に処方された鎮痛薬を飲ませてみようと言うのです。

「大丈夫かな?勝手に飲ませて・・・」

私が言うと

「そんなことを言ってる場合じゃない。こんなに苦しがっているんだから

 飲ませてみよう。それでだめでも仕方がないよ」

お父さんがそう言うのなら、それで良いと、私は思いました。


時々、お父さんが布団から出て、代わりに私が添い寝をすると

はなは一際大きな声で叫んだのです。

お父さんを呼んでいたのだと思います。

そんなに大好きなお父さんが決めたことなら、そして一番はなのことを思っている

お父さんが決めたことなら、それで良い、そう思いました。


錠剤はもう受け付けないので、潰して少量の水で溶き

小さな注射器で口に入れようとしました。

お父さんがはなを抱っこして、私が飲ませたのですが

不慣れな上に、はなも嫌がり、かなりの量が口の外へ流れ出してまいます。

それに私が要領がわからず、溶いた水が多すぎて、はなにはたくさん飲ませる羽目に

なってしまいました。

30分おきくらいに、2回飲ませましたが、効き目は目で見てわかるほどではなく

はなは、しばらく経つとまた、鳴き声を上げ始めました。



私は今でも、何度も口を開けさせ、嫌がるはなにたくさんの量の

薬を飲ませてしまったことを、本当に申し訳なかったと思うのです。

注射器を口に突っ込まれながら、私を見たはなの目。

「こんなことしないで、お願い」

「本当は、自分が楽をしたいんじゃないの?」

そう訴えていたように見えたからです。

その思いを話すとお父さんは

「はなは、わかってる。俺たちが自分のためにならないことをするはずがないって

ちゃんとわかってる」

そう言い切りました。

私はまた、お父さんの愛情の方が深いんだなとつくづく実感しました。


結局、朝まで状態は変わらず、夜が明けてから、さすがに疲れ切ったのか

少しの間、うとうとしたようでしたが、また、すぐに、鳴き始めてしまいます。


お父さんは、ほとんど寝ることができなかったので、少し遅れて行くことにしました。


そして、私は朝一番で、獣医さんに行って鎮静剤をもらって来ようと

決めていました。


もうこれ以上、苦しみを長引かせてはいけないと、強く思ったからです。



あの晩のはなは、本当に苦しかったのだと思います。

側で見ていた私たちも、とても辛かったのは事実です。

もう、あんな思いはしたくありません。

けれど一方で、こうも思います。


はなは、大好きなお父さんに一晩中側についてもらって

声をかけ続け、撫で続けてもらって、たぶん、満足していたんじゃないか。

はなはお父さんが一番好きですが、お父さんが家にいる時間はとても少ないし

出張で家を開けることも多いので、きっといつも

お父さんの帰りを待ち続けていたのでしょう。

最近は、しっぽを振ってお出迎えすることもなかったけれど

ずっと心の中では、お父さん、そろそろ帰るかなぁと

待ち続けていたはずです。

そんな大好きなお父さんを独り占めして、たくさん鳴いて甘えて

苦痛を訴え、一晩を一緒に過ごしたはなは、それだけで十分

納得して、旅立って行ったのだと、確信できるのです。



お父さん、お帰りなさい


これがはなの最後の夜に起きたことです。

なるべく自分の記憶に忠実に、正直に書いたつもりです。

でも、すごく大事なことを書き忘れているような気もしています。

すみませんが、ここでちょっと一息入れさせてくださいね。


そして、はなの最後の日のことはまた次に書きたいと思います。