はなの旅立ち 4

こんにちは。 emihana です。



またまた間が空いてしまいました。

あの夜のことを書き終わって、何だか少し気が抜けたようになっていたのです。

あ、とは言っても、私は大丈夫ですよ。

あくまでも、ブログの更新の話ですから。



さて・・・

はなの苦しい夜は明けました。

そして私の気持ちは、はっきりと固まっていました。


とにかく、朝一番で獣医さんに行って、鎮静剤を頂いて来よう。

苦しみが続くようなら、すぐに飲ませてやろう。


これ以上、あんな状態を長引かせるのは忍びなかったのです。



はなはさすがに、疲れ切り、消耗しつくしていたのでしょう。

明け方までよりは、少し鳴き声を出す間隔が空いたようでした。


けれど少ししてから鳴いた時、様子を見たら、布団の中でうんPをしていました。

もちろん、足腰が立たなくなってからは、寝たままで排泄していましたが

大きい方は、何も食べていなかったので、丸二日(もしかしたら三日)くらいは

していなかったと思います。

それはもう、いつものものとは違う軟便で、少し黒い色をしていましたが

輸液のせいかな?と思いました。


一緒に寝ていたお父さんは、全然気づかずにいて、でも、奇跡的に

どこも汚れはしませんでした。

静かにじっと添い寝をしていたからだと思います。



「朝一番で、薬を取って来るから。それで、苦しそうだったらすぐに飲ませる」

私はそう言いました。

お父さんもそうしてやってと言いましたが、たぶん、私と違って

まだ心の底では、あきらめてはいなかったと思います。

前の日から「念のため、焼く場所を調べておいて」そう口にしたりしていましたが

それでも、いやまだ、もしかしたら・・・そんな気持ちは残っていようでした。

お互い、細かいことは話しませんでした。でも、私にはわかりました。


家を出て病院まで歩いて行く途中で、近くに住む両親に電話しました。

「たぶん、はなはもう長くはないと思うから、生きてる間に会いたかったら
 
 見に来てやって」

私はもう、はなに残された時間が、少なくなって来たこと、つまり

今日が最後の日になるのかもしれないことをわかっていたようです。

と言うより、自分が今から、最後の幕を引いてやることになるんだろう

そう思っていた気がします。



獣医さんに近づくと、一台の車が駐車場に入って行くのが見え

私は思わず小走りで、その人より先にドアを開け入って行きました。

少しでも早く、薬を持って帰ってやらなくてはいけないと考えたからです。

診療開始の2、3分前のことでした。


やがて、スタッフのお姉さんが顔を見せたので、事情を説明して

呼ばれるのを待っていました。

その間も他の飼い主さんが、フィラリアの薬をもらいに来たとか

トリミングをしに来たとか、そんなことを話しているのを聞きながら

獣医さんに来る人のうち、どのくらいの人が今の自分と同じような気持ちなのかな

そんなことを考えたり、たまたまその場にいた飼い主さんがワンちゃんのことを

「はな」と呼んでいるのを聞いて、同じはなちゃんでも若くて元気な子なんだな

などと、寝不足と頭痛でぼんやりする頭で思っていました。



先生が見えて診察に呼ばれました。

私は昨夜のはなの様子を説明し、昨日来た時とは違って、はっきりと

「これ以上苦しませたくはない、これが飼い主としての責任だと思うから

 薬を飲ませてやりたい。それで心臓が止まってしまっても、仕方がないと持っている」

そう話しました。

「長く介護が続いて、こちらがまいってしまわないように」

そんなことは、もう少しも思ってはいませんでした。


ただ、苦しみを終わりにしてやりたい。それだけだったのです。


先生は真剣に私の話に耳を傾けてくださり

「もう、飲ませてあげて、いいと思います」

静かに、そうおっしゃいました。


この言葉を聞いた時、「ああ、やっぱり、もう昨日の時点で、先生には

わかっていらしたんだな」

と、思ったのを覚えています。


先生は、「もう固形物は受け付けないので、薬を粉末にしますから水に溶かして

飲ませてあげてください。ふつうなら10分もしないうちに効いて来て

短ければ2、3時間、長ければ5、6時間は効くと思います」

と説明してくださいました。


私が「もし一回飲ませて、薬が効かなかったり、目を覚ましてまた苦しがるようなら
 
すぐにまた飲ませてやりたいのですが」

と伺うと、先生は

「お任せしますから、emihana さんが判断して飲ませてあげてください。

 こちらは5回分出しておきますから」

そうお答えになりました。


上手く言えないのですが、先生と私は二人とも、直接的な言葉を

使ってこそいませんでしたが、お互いの言葉の真意をすべて飲み込んで

意思の疎通を図っていたと思います。


今思い返してみても、はなが日本に無事に戻ってくれて

この獣医さんとご縁ができて、本当に幸運だったと、有難さが身に沁みます。



薬を受け取り、急ぎ足で家に帰ると、両親が来ていて

「はながあんな声を出すなんて・・・」とびっくりしたようでした。

お父さんの話では、はなはまた一定間隔で鳴き出したとのことで

私はやはり、すぐに薬を飲ませることにしました。


今度はなるべく楽に飲ませてやろうと、水の量に気を付け粉薬を溶き

小さな注射器に三分の一ほどの薬をお父さんに抱っこされたはなの口元へ運びます。

はなは前の晩とは違って、嫌がることなく、とても上手に薬を飲んでくれたのです。

もう、あの何かを言いたげな眼差しではありませんでした。



そっと布団に横たわらせ

「すぐに楽になるからね。もう大丈夫だよ」

そう声をかけ様子を見ていると、本当に10分もしないうちに

すとんと眠りに落ちて行きました。

「ああ、よかった・・・」

見ていたみんなが安堵しました。


ちゃんとした眠りは、おそらく3日ぶりくらいです。

もちろん、もう呼吸は荒いままでしたが、それでもそれは規則的で

乱れたりもせず、一目で熟睡しているのわかりました。


お父さんもそんな様子を見て胸を撫で下ろし、家を出ました。

あとで聞いたところによると、これでまた持ち直してくれるかも

そう考えたそうです。


両親も帰って行き、私だけが側に残りました。

この時私が何を考えていたのかと言えば、もし、薬が切れてまた苦しみだして

薬を飲ませて、また苦しんで・・・そんなことを繰り返すのなら

どうか、このまま逝かせてやってほしい・・・そう思っていたのです。


たとえ、お父さんの帰りに間に合わなかったとしても

これ以上苦しませたくはなかったからです。

それくらい、はなはよく寝ていました。

気持ち良さそうとか、スヤスヤ、とか、そんな風ではなかったけれど

少なくとも、あの前の晩のひどい苦しみからは解放されていたのです。


「はな、もういいよ。頑張らなくてもいいよ。お父さんもわかってくれるから」

何度かそんなことを話しかけ、体を擦ったりして、側についていました。



はなの荒い呼吸は元に戻ることなく、心臓は必死で働いているのでしょう。

胸がものすごく大きく上下に動き続けています。

その動きを見つめていたら、不意に、可哀相でたまらなくなりました。


「はな、ごめんね、ほんとに、ごめんね・・・」

気が付いたら、はなに覆いかぶさるようにして、泣いていました。

両手で、体を擦りながら、泣きました。

体調が悪化してから、初めてでした。

一人だったから、泣けたのだと思います。


私はとんでもなく独りよがりのことをしているのではないか

そのことに対して、心から詫びたかったのです。

他にも色々と、数限りなく、謝りたいことだらけでした。



涙を流した後で、いつかどこかで、誰かの書いた

「自分の犬を見送る時に、たくさんのありがとうを言いたい。

ごめんねよりも、ありがとうを多く言えるようにしたい」

そんな文章を読んだことを、思い出しました。

「ああ、やっぱり、自分はあんな風にはならなかったな・・・」

そう思って、心の中で少しだけ笑いました。



今回で、この話を終えるつもりでしたが、また長くなってしまいました。


どうか、あと一回だけ、お付き合いくださいね。


ヘタレは最後までヘタレなのです。



こんな、はなや


あんな、はな